夏の終わりの恋物語 【下】

 


■ 夏の終わりの恋物語 〈下〉 2003/9/10(Wed)




4人を乗せた白いスカイラインが観音崎についた頃、空には満天の星が広がっていた。



T大学法学部4年 スキー部主将 愛称 「マイケル」



その後輩 経済学部1年 オバQ似の 愛称 「ゲンキ」



そして私と親友ミドリの4人は観音崎の駐車場に車を止めて、今からどう行動しようか話していた。





「2対2で別々に行動しようか」




先輩のマイケルがゲンキを見ながら言った。




「そうですね。先輩。じゃ、グーパーとかしますか?」





―――え・・? いまどき グーパーで決めるのか?―――





子供っぽいゲンキの提案がチョットおかしかった。






私は心の中でゲンキと一緒に行動したい気持があったので、真剣な目でゲンキのジャンケンをする手を見つめていた。






―――グーかな・・・・それともパーだろうか・・・―――






必死に考えたが念力もない私にわかりっこない。




マイケルがかけ声をかけた。





 「じゃ、いくよ。グーパー・・・ジャン!」





あ・・・・




ゲンキがチョキを出した瞬間わたしはグーだった手の人差し指と中指を瞬時に開いた。





「お前さぁ。グーパーって言ってんのにチョキかよ」




マイケルがあきれたようにゲンキを見て笑った。




「あ、すいません先輩。間違えた・・」




ゲンキは天然(ボケ)らしかった。





「でも鮎ちゃんもチョキか(笑)。なら決まりか。じゃ、僕はミドリちゃんと、ゲンキお前は彼女と」




マイケルはそう言うとミドリの背中をおすようにして歩き出して行ってしまった。




「ねねね、どこ行こうか~へへへ」




オバQそっくりな笑顔でゲンキが嬉しそうにわたしに聞いた。





「ともかく歩こっ」




わたしたちは観音崎の頂上を目指してただひたすら歩いた。






30分くらい歩いただろうか・・・・



道がひらけた。






360度 おそらく海だろう。




夜でほとんど景色は見えないが私達はぐるりと海でかこまれた場所に立っていた。




「この辺に座ろっか~ へへへ」





喋るたびにゲンキは空気が抜けたような声で笑う。



笑うと口元が耳のあたりまで裂ける。



笑うと目が思いきりたれて顔から落ちそうになる。




すっごく面白い顔なのかもしれないがわたしの目にはゲンキのオバQ顔が愛くるしく魅力的に見えた。




大きめの石の上に2人で座った。




  「すごいね星。見てみなよ。上。へへへ」




空を見上げると今までに見たことのない無数の星が夜空にちらばっていた。





  「わぁ~!!!すごい星の数・・こんなの初めて見た・・・」





顔を空と平行な角度まで首を後ろに折り曲げたままわたしはつぶやいた。




その時  



       


    「あ・・」






すぅーっと星が流れた。





  ―――流れ星だ!―――




 「わぁっ!今! 流れ星!」





わたしは産まれて初めて見る流れ星に感動して興奮していた。





「この場所けっこう流れ星見えるよ。ずっと見ててみ。へへへ」




「今度流れ星を見れたらお願いごとしなくちゃ」



わたしは何を願おうか考えながらずっと無数の星たちを見つめていた。




すると又




    「わ!」




またスーっと糸をひくように星が流れた。







―――もっとヤセろ!家族健康!恋人できろ!―――







一瞬で必死に祈ったが間に合わなかったかも。





「何か願い事できた?へへへ」





ゲンキがわたしを見て笑顔で聞いてきた。





「うん・・・でもあっという間だったからなぁ・・・



 ゲンキは?何かお願いしたの?」





「へへへ・・・・したよ」





「なに?どんなこと?聞いてもいい?」





「へへへ。いいけどぉ・・・・ハズカシイなぁ・・へへ」





オバQは恥かしそうにうつむいた。






「教えてよ」





「えっとねー・・・今、○○○したい~!って星に言ったんだ」




  ――― ○の中には 何が入るんだ!?―――






「カタカナだと3文字かな~ へへへ」






  ――カタカナ3文字???なんだ?ええ!?まさか・・・――






         エ ッ チ    か?!(◎o◎;)







「他の言い方もあるな。えとね~漢字だと二文字かな・・」






 ――うむ・・・・漢字で二文字・・・・・―――







       交  尾 ・・・か・・?・・・汗(*..)







それは考えすぎだったようだった。



次の瞬間、あっという間にそれは行なわれたのだから。





一瞬だったはずなのだけど時間がゆっくりと流れていった。


風の音と波の音が私達を包む。


秋の虫たちの賑やかな輪唱が聞こえていた。





  カタカナで3文字・・・キッス



  漢字で2文字・・・・・接吻




     


だったのか・・・・






エッチor交尾 と思ってあせっていた自分が恥かしくて真っ赤になった(苦笑)





目の前に海が広がっているであろう闇の中の景色にひたりながら無数の星に見つめられて2人は恋人への第一歩を踏み出した。





風の中で・・・



虫たちの声と波の音をBGMに・・・・・



灯台の明かりが時折 海を映し出す。



それから私たちは1時間はそこの場所で闇の中にある海を見つめていた。





「どんなことがあっても来年、又この場所に来ようよ。ね。約束!」





そう言うとゲンキは小指を私の目の前に差し出した。





私は笑顔でうなずき 小指を絡めながら





「指きりゲンマン~ウソついたら・・・・」





ゲンキの唇が私の言葉を遮った。





私の頭の中で、サザンの「真夏の果実♪」が流れていた。








駐車場に戻ったときにはマイケルとミドリが待ちくたびれてぼやいていた。




「どこに行ってたんだよ。もう2時間くらい待ったぞ」





マイケルがゲンキに向かって少し怒った口調で言ったので





「ごめんね。なんか道に迷ってしまって戻れなくなっちゃって・・・」




わたしは嘘をついた。





私とゲンキは今あった出来事を内緒にしようと目で合図をした。




秘密を持つってドキドキする。




さっきの出来事を知っているのは瞬く星と私達のそばで輪唱していた秋の虫たちだけ。







そして私たちを乗せた白いスカイラインは再び葉山へと向かっていった。








それから秋になり




冬になる前に私達の恋は終わりを告げた。




もう一度あの星の降る場所に2人で行く事はなかった。






あの時、恋人への階段を一歩上っただけでそれ以上、上る事はできなかった。




私がどうしてもあと一歩、右足を踏み出せなかったから・・・





二段とばしでどんどんのぼっていく大股の女に負けたのかもしれないと今ごろ気づく私だった。(苦笑)





あぁ青春・・・・涙w





また気が向いたらタイムマシーンに乗って次の恋の思い出まで飛んでみたいと思います。





ではその時まで・・・ごきげんよう♪



                     ―おわり―