みじめな恋

 

■ みじめな恋 2007/7/24(Tue)

 




「こっちまで2時間近くかけて会いにきてくれるんだからさ、


帰りはオマエんちまで送ってあげるのはあたりまえだよ」



と言って、デートの帰りはいつも彼が車で自宅まで送ってくれた。




「オマエの家につくギリギリまで話しができるから楽しいし、帰りだって平気だよ。


音楽ガンガン聴きながら帰るからさ。眠くならないよ。気にしないで!大丈夫だよ!」




と言ってくれた。




デートの時は2時間近くかけて私が電車で彼の家の最寄の駅付近まで行き、


そこから彼の車でデートをした。



そして帰りはいつも私の家の前まで車で送り届けてくれていた。



あと15分も走れば家に着いてしまういつもの坂道。



まだ離れたくない・・・


まだ別れたくない・・・




でも甘え慣れてない私が鼻にかかった声で可愛いセリフを言えるわけもなく・・・



でもなんとかその気持ちが伝わらないかと念力を送ってみる。





・・・・・ん~~もうちょっと一緒にいたい~~・・・・・





すると、念力が伝わった!w(゚o゚)w





彼は坂道の上で車を止めると



「もう少し一緒にいようか?」と私の顔をのぞきこんだ。





めちゃくちゃ嬉しいけど 可愛い顔ができない。




甘え下手な私は「うん」というのが精一杯。




車を止めて優しく抱きしめてくれる彼に



「帰りたくないな・・」



とか言ってみる。



けど帰りたくなくても絶対に帰らないとダメなわけで、


言ってみただけなのだが・・・



帰りたくないな。の言葉も可愛い言い方など出来ていなくて、


だいぶ不自然で気持ち悪かっただろうな・・・





彼と過ごす時間が楽しかった。



ただ本屋に寄ってブラっとするひとときも、



ドライブスルーでマックを買って車の中で食べるひとときも、



美味しい屋台の焼き鳥屋さんで


ぼんじりを買って食べながら歩く時間も、



一緒に過ごせる全ての時間が私には幸せな時間だった。





そして、それから数ヶ月が過ぎ・・・・


彼の態度が、だんだんと変化していくのに気づいていたのだが


連絡が来るといそいそと出かけた。




ある日のドライブ中、スタンドに立ち寄った時に彼が言った。



「あのさぁ、車でデートするとガソリン代けっこうかかるんだよねー。


ガソリン代 出してくれる?」




1000円札を財布から2枚出しながら私は泣きそうになっていた。



私は言葉を失ってしまって何も言えなくなっていた。



涙があふれてきた。




「あれ?どうしちゃったの?もうお別れの時間なのが寂しいのかな?」



と、冷めた笑みを浮かべて私を見る彼。




私の涙の意味がまるでわかっていなかった。



「俺んちまで2時間近くかけて会いにきてくれるんだからオマエんちまで送ってあげるのはあたりまえだよ。」


と言ってくれていた彼が、



デートで車を出してあげてるんだからガソリン代を払ってと言う。



そのわかりやすい気持ちの変わり方にショックを受けていた。



私は、けっして金のかかる女ではない。


むしろ男を甘やかしすぎてダメにしてしまうタイプなのだ。


なんでも「私が支払う」と、つい言ってしまう。


そういう女って男をダメにするんだよね、と友人に言われたことがあるけれど


男に奢ってもらうのは当たり前と思っている図々しい女が大嫌いだったし、


私も働いているのだから奢ってもらわなくても大丈夫だし、って思っていた。




いつも多めにお金を引き出しては自分が支払うことを想定して出かける。


働いたお金は、全てデートのためにとってあった。




私への気持ちが冷めていることに気づきながらも


彼とサヨナラなどできないまま日々は過ぎていった。



そして彼から電話が来ると、冷たい態度をとられるとわかっていながらも


又2時間近くかけて彼のところへ向かっていた。





ある日、仕事が空いて暇を持て余していた彼から電話がきた。



その日は私は夕方から仕事だったのだが


彼に会いたくて仕事の日程を変更して彼に会いに向かった。




彼の車が私を乗せて特に行くあてもなく東京の街を走っていた。




普通の恋人たちがするデートがしてみたくなっていた私は思い切って彼にお願いをしてみた。




「水族館へ行ってみたいなぁ・・」



と、彼に言ってみた。





「水族館かぁ・・・ 昨日すし屋に行っちゃったんだよねー」





     ・・・へ?寿司屋行っちゃったって??・・・・どうゆうこと???




「寿司屋で魚たち見たばっかだからなぁー」




「あ、そっかぁ・・・」





あ、そっかぁ・・じゃないだろ!あたし!


水族館の魚と、寿司屋のネタと一緒かよ!ってツッコめ!私!






つっこめなかった・・・





そして水族館へ行くことはなく


そのまま車はただなんとなく走り続けていた。



だが、やがて日が暮れて東京の街が少しずつ色づき夜に切り替わる時間、


今 走っている近辺の駅で車から降ろされる予感がした。



けれど彼ともう少し一緒にいたかった。




ただ車の外を走る東京の景色を彼の横の助手席で見ているだけでよかった。



彼の気持ちが冷めていようが、それでもそばにいたかった。




東京の街を走りながらでも、もうしばらく彼と時間を共に過ごしていたい思った私は、

あと少しだけ一緒にいたいと彼に伝えたくて、そっとつぶやいた。




「あのね、お願いがあるんだけど・・・・」




すると彼が、




「お願いって、何? 家まで送って、って言うのは勘弁してくれな。」





と言って、笑った。






終わったんだ・・・と、思った。




「ガソリン代出してくれる?」 と言った彼の言葉と



「家まで送って、って言うのは勘弁してくれな」の2つの言葉で




やっと、



終わったんだ・・・ と悟ることができた。





わかっていたけれど気づきたくなかった。




愛が消えてしまったことを。




愛なんて最初からなかったのかもしれない。




私の妄想、思い込み、勘違いだったのかもしれない。




今振り返ると、そう思える。




彼の前で流した涙はいったい何になったのだろう・・・



思い出すと虚しさとみじめさばかりが蘇る。





ただ、彼に出会えたからこそ得たものがあった。



それは何かは言えないけれど・・・




彼に出会えたからこそ得たものは赤ちゃんです。



とかってオチじゃなです。 念のため(笑)







これは自分から見た思い出なので、


あっちから見たら全く違った話になるのだろうと思う。




思い出って自分勝手なものだ。



けれど、今でも寿司屋に行くと


水族館に行けなかったことを思い出す。




みじめだったな。あんとき。




でも、




思い出をありがとうね。



ばかやろー 






            ―想い出の2ページより―